犬の体外受精、初めての成功は2015年に
犬の体外受精なんて、とっくの昔から行われているだろう、と思っていたら、これは全くの間違いでした。
なぜそう思っていたのか?と言うと、人間の体外受精は、今や特別なことではなくなっているような気がしたので。
実際、少し調べてみると、人間の体外受精児の誕生は世界では1978年に、そして日本では1983年に報告され、現在では日本での体外受精による出生児は、21~22人にひとり、ということです。日本は今や世界でも有数の体外受精大国になっているとのことなのです。(亀田グループ医療ポータルサイトから、「体外受精のお話① ~体外受精の歴史と日本の現状~」の記事を参考にさせてもらいました。)
人間の体外受精がこれだけ一般的なものになっているのだから、犬なんて、もうとっくに普通に行われているように思うのは、決して不自然ではないと思いませんか?
でも、違ったのです。
犬の体外受精が世界で初めて成功したのは、なんと2015年7月10日です。まだつい最近のことなのです。
この時に体外受精で生まれた犬は、7頭。ビーグル5頭と、ビーグルとコッカースパニエルの雑種が2頭です。(上の写真のビーグルはこの記事とは関係ありませんのでご了承を)
コーネル大学とスミソニアン保全生物学研究所のチームによって、この世界初の犬の体外受精児7頭は生まれたのでした。
2015年当時はいろいろな媒体で報道されていたので、覚えている方もいらっしゃるかもしれませんね。
でも、その後の様子はネットで調べてみても、なかなかそれに関する情報がみつかりません。
おそらくは、5頭とも元気で育っていると思うのですが・・・。
また、ネットで「犬 体外受精」と検索しても、この7頭の当時の記事が出てくるだけで、他には犬の体外受精に関する記事は見つからないので、その後の犬の体外受精の進展はあるのかな、と、少し気になっています。
犬の人工授精は行われているけど、今後体外受精も出来るようになるのかな?
犬に関しては、人工授精はすでにブリーダーでも行っているところはあり、それほど特別なことではないようです。
人工授精の場合は、オスからあらかじめ採取した精子をメスの子宮内に挿入し、メスの子宮内で卵子と授精させます。
しかし、体外受精の場合は、オスの精子と、メスの卵子をそれぞれ採取して、それぞれの体外で、授精させてから、メスの体内に戻す方法です。
基本的には人間と同じ方法なのです。
でも、犬の場合、この体外受精はとても難しい技術だったようなのです。
なぜ人間では一般的にさえなってきた人工授精の技術が、犬では難しいのか?
それについては、ハザードラボさんのサイトの、世界初の犬の体外受精について書かれた記事に次のような説明がされていました。
チームのジェニファー・ナガシマ研究員によると、犬を対象にした体外受精は1970年代から試みられていたという。しかし、犬の精子は人間などのほ乳類と違って、コレステロールの膜で覆われており、子宮を通るときには、マグネシウムを含んだ化学物質に触れることで膜が破られて受精する仕組みであるため、失敗続きだったという。
そこで研究チームは、受精卵をマグネシウム成分を含んだ培養液の中に48時間置いてから冷凍保存すると、受胎の確率が高くなることを発見した。新しい技術によって受胎率を8割~9割まで高めることに成功した。
出典:https://www.hazardlab.jp/know/topics/detail/1/1/11689.html
要するに、犬の精子と人間の精子との違いの一つに、犬の精子がコレステロールで覆われていることがあり、それが犬の体外受精を難しくさせていた主な原因であったようです。
それにしても、2015年まで犬の体外受精が出来なかった、というのはとても意外な感じがするのは僕だけではないでしょう。
さて、犬の体外受精が成功した、では人間のように一般的に行われるようになるのか?
これは犬の場合には簡単ではないでしょう。
1970年代から試みられて、成功したのが2015年です。ということは、45年間成功しなかったのです。
その成功のカギは、受精卵をマグネシウム成分を含んだ培養液の中に48時間置いてから冷凍保存する、ということなので、ブリーダーが簡単にそんなことを出来るようになるとは思えませんからね。
でも、そういった専門業者があれば、もしかしたら意外に早く犬の体外受精も普及するのでしょうか?
前述の通り、この件以降の記事が見つからないので、今のところわかりません。
また。犬の体外受精に関する新たな報告が出ることを期待したいと思います。
犬の体外受精で希少犬の繁殖に期待、さらに遺伝子疾患の対策にも
2015年当時のこの世界初の犬の体外受精に関する記事を見ていると、この成功によって、希少な犬種の繁殖が期待できる、というようなことが書いてあるものもあるようです。
確かに、それは期待できるでしょうね。
希少犬の場合、個体数が少ないので、交配できる犬が限られてしまいます。
従って、どうしても血縁の近い犬同士の交配にならざるを得なくなる場合もあり、血が濃くなってしまう、それによって遺伝的な疾患なども増えてしまう、という危惧があります。
でも、体外受精が出来るようになれば、地域的に離れた国にいるオスとメスの精子と卵子を採取できれば、それぞれの犬がいなくても、犬の体外受精が出来る施設で、その精子と卵子を使って、子犬を生ませることが出来るようになることになります。
これは、その犬種を絶滅させない、という目的のためには有効な手段となるのかもしれません。
さらに、遺伝子疾患が多い犬種においては、この体外受精の技術を使って、遺伝子疾患の対策が検討できるのでは、という期待もあるようです。
そして、犬だけでなく、犬の仲間である野生の狼など、絶滅危惧種とされる動物の繁殖にも期待が出来るようです。
犬の体外受精、倫理的な点での問題はどうなのか?
このように、犬の体外受精の成功はいろいろな点でメリットが期待されているようです。
しかし、体外受精と言うのは、人間でもそうですが命を生み出す技術です。
倫理的な問題は必ずあるはずです。
例えば、ドッグショーで優秀と言われるようなある犬種の世界一のオスと、同じ犬種の世界一のメスから精子と卵子を採取すれば、そこから世界一のオスとメスの子犬をその犬がいなくても生み出すことが出来るようになる、ということです。
これは、一部のブリーダーにとってはとても嬉しいことでしょう。
でも、それって倫理的に問題ないのでしょうか。人間で言えば、世界一の美女と、世界一の美男子の子供を人工的に作ってしまう、ということと同じようなことではないでしょうか。
人間の場合でもこの問題は当然あるとは思いますが、実際に人工授精にかかわる医師の方は、このあたりの問題はしっかりと管理されているものと思います。
しかし、ただでさえ(というと怒られそうですが)倫理的に問題のある交配を行っているブリーダーもいる犬の世界ですから、体外受精がどんなブリーダーでも出来るようなことになれば、それはとてもハイリターンな商売の道具になってしまう危険も十分あるでしょう。
犬体外受精、使用する目的によってはとても有益な技術になると思うので、ぜひ、商売の道具にならないように、健全な進展をしてほしいと願います。
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